6.PC向けゲームブック風ゲームの制作案
PC向けに、ゲームブック風のゲームを作るとしたら。その場合の注意点等のメモ。シナリオ制作論や、ゲーム制作論は含んでいない。
なお、私はiモード版のゲームブック作品を一切プレイしていないことをお断りしておく。HTML版のゲームブックは遊んだことがある(クリア経験はなし)。
既存ノベルとの差異をどこに置くか・その1 …… テンポと選択肢の細かさ
PC向けのノベルのテキストと、ゲームブックテキストの最大の違いは、進行のテンポにあると考えている。
- 大半のゲームブックは、場面の切り替えや、プレイヤーに問いかけを行うテンポが速い
- 大半のPC向けノベルは、一つの場面、一つの会話を精細に記述しようとする。また、選択肢の密度が薄い
選択肢の密度と分岐の精細さが、PC向けゲームブック風ゲームで出すべき最大の特徴であると考えている。もし、テンポをゆっくりめに、分岐の緩いテキストゲームを作ってしまえば、まったくノベル物と変わらなくなる。
PC向けゲームブック風ゲームでは、テンポ良く場面を切り替えて、選択肢を前面に押し出し、数多くの解と罠をプレイヤーに与えるようにしたい。
既存ノベルとの差異をどこに置くか・その2 …… 人称と個性
PC向けのアドベンチャーゲームのテキストと、ゲームブックテキストの違いに、主人公の呼び方がある。
- PCゲーム … 主人公を一人称で呼んでいることが多い(ex.「俺は、剣を手にした」)
- ゲームブック … 主人公を二人称で呼んでいることが多い(ex.「あなたは、剣を構えた」)
有名どころのゲームブックの主人公は、大半が無個性である。セリフがまったくないか、ほとんどない。結果、プレイヤーが主人公に自己を投影させやすい。
一方で、最近の多くのPCゲームでは、主人公に個性が与えられていて、物事を考える行為も、言葉を話す行為も、自動的かつ具体的に行われる。結果、主人公とプレイヤーは必ずしも一体ではなくなる。
詳しい論は余所に譲るとして、この点については、どちらでも面白いものが作れると思う。好みで選ぶようにする。ただ、ゲームブック風を前面に押し出すのであれば、有名どころを踏襲して、無個性の主人公を設定した方が、失敗が少ないのではなかろうか。PCノベル物との差別化も行いやすい。
選択するゲームシステムについて
たいていはWindows上だろうが、OSは何であれ、実行するゲームシステム(実行エンジン)を選ばなければならない。
これには、PCノベルゲーム(アドベンチャーゲーム)を制作するためのシステムでいい。たとえば、NScripterや吉里吉里2など。スクリプトを勉強しなければならないが、テキストと音楽の制御だけであれば、それほど複雑な知識は必要としない。
ただし、ゲームブックに特化したシステムではないため、項目番号(番地)をラベルに置き換えたり、クリック制御を行う工夫は必要になる。実際に試してみると分かるが、文字のサイズや色を変えたくなったり、壁紙を置きたくなるかもしれない。随時勉強していくしかない。
葦葉製作所でも汎用ノベル向けのシステムを開発しているが、まだ実用段階ではない模様(個人的に応援、というか中で開発に協力している)。また、ゲームブックに特化していない点は、他のノベルシステムと同様。
文章は縦書きか横書きか
横書きを推奨したい。
元のイメージがあるため、縦書きを採用したくなるかもしれないが、入り口の段階でプレイヤーを減らす一因になると考えている。
項目番号(番地)の有無
厳密には不要だが、雰囲気を出すために付けてもいいと思う。
クリック(キー入力)待ち
一行ごともしくは句点ごと、または改ページごとにクリック(キー入力)待ちを入れる。ただし、行(区点)クリックについては、プレイヤーごとに選べてもいいと思う。
音楽
BGMはぜひ欲しい。あるのとないのとでは印象がずいぶんと違ってくる。素材集でもいいので活用したい。
もしBGMなし版を作ってみたいなら、BGMを入れた後、「本来はBGMがないことを想定して制作した」旨をゲーム中に注意書きした上で、BGMの有無を選択できるようにしてはいかがだろうか。大半のプレイヤーは、BGMのないゲームを望まないはず。
BGMの挿入によって作られるゲームは、結果としてアドベンチャーゲームとか、サウンドノベルの範疇になるのかもしれない。しかし、音楽を除けば、テキストで物語を制御する仕組みは、もともとゲームブックにあった要素であるため、イメージとして近づいてしまうことはやむを得ないと考える(プレイヤーから、ノベルだと言われてしまうだろうが、すっぱりとあきらめる)。
イラストや写真
イラストもできれば欲しい。世界観を端的に表したり、リドルを潜り込ませたりと用途の幅は広い。写真でもOK。あえてモノトーンで表現したり、劣化したようなエフェクト加工を施すのも有用な方針であるかと。
イラストや写真は、あまりうるさくならない方がいいが、大量に用意できる人は、絵や写真でストーリーを推進させる内容でも良さそう。
表示方法は、画面いっぱいに表示したり、画面の半分を利用したりと好きずきで。一枚絵の表示は、ノベルシステムの得意とする機能である。
なお、イラストの準備は、個人的には厳しい要求である(絵は描けない…)。
効果音
ゲームブック風らしさを大きく損ねる原因になるような気がする。ゲームの要素としては悪くないと思う。
自前でサイコロを振らせる場面
実際に、手元でサイコロを振らせるかどうか検討する必要がある。ゲームブックらしさをどこまで追求するか決める上で、重要な検討事項である。サイコロソフトを付けてもいい。
- パラメータ決定のために、サイコロを振らせる
- パラメータ判定のために、サイコロを振らせる(運点との比較など)
- 出目を(1〜6や2〜12の選択肢をサイコロで)決定するために、サイコロを振らせる(自由に選ばせてもいい)
個人的には、嫌がるプレイヤーが多いと考えている。サイコロは一切振らせないゲームを希望。
初期パラメータの決定
体力点・運点・技術点のような仕組みをPCで実現したい場合、初期値の設定が問題となる。サイコロを実際に振らせたくない場合(PC上で決めたい場合)、以下のような方法を考える。
- 固定値にする
- 何パターンか用意してプレイヤーに選択させる
- 合計値を決め、その範囲で値を割り振らせる
パラメータ変化と表示
ゲームに必要なパラメータ制御(体力など)は、ゲーム中で計算し、表示するようにする。(フラグ(チェックシート)は例外。後述する)
プレイヤーは、複雑な情報管理を望まないことが多い。パラメータの設置は、能力値が増減している実感が沸きやすいものを、少数に絞ることが望ましいと考える。
たとえば、FFシリーズに登場する「運点」は、PCがオートで吉凶を判定してしまう方法をとった場合、運による“ありがたみ”が本家ほどにはプレイヤーに伝わらない可能性がある。
戦闘システム
FFシリーズにあるような、パラメータの比較による戦闘システムを実装する場合、できる限りオートで実行するようにする(運点の処理があるため、そうもいかないかもしれないが)。ただし、FFシリーズの戦闘がコンピュータゲームに適しているかは別問題である。
サイコロの振り合いに依存しない戦闘システムを設計するか、ドラゴンクエストのように、実質的にコンピュータゲーム風の戦闘を実装してしまうことも一つの方法であると思う。
フラグ管理
フラグ管理について。基本的に、フラグの情報はプレイヤーに知らせないようにする。
- アイテムの場合
- 「アイテム」の有無がフラグになっている場合。PC上では、アイテムを所持しているか否か、自動で判定できるので「○○を持っていたら△△へ」という記述は必要ない
- 見えないフラグの場合
- 以前レバーを引いたことがあるかどうか、特定の人物と出会ったことがあるかどうか、といった情報もPCで管理できるので、「レバーを引いたことがあるか?」という問いかけや選択肢は必要ない
使いどころを自由に選ぶ判断
これは、ゲームブック側の例を示すと以下のようになる。
- 今、あなたが手に入れた「赤い鍵」には15と刻まれている。「赤い扉」にたどり着いた際、この鍵を使いたければ、そのときの番地から15を引いた番地へ飛べ。飛んだ先で話がつながっていなければ、使いどころを間違えている。
これをPCに移植しようとすると、プレイヤーが「赤い扉」にたどり着いたとき、PCが自動的に「赤い鍵」の所持判定をして使用することはできない。プレイヤーがいつ「赤い鍵」を使用する気になるか分からないためだ。
PCに移植する場合、各番地で特定のキーに反応した割り込みを実装すると、近い形を実装できる。たとえば、上記を以下の通りに改訂する。
- 今、あなたが手に入れた「赤い鍵」には15と刻まれている。「赤い扉」にたどり着いた際、この鍵を使いたければ、F5キーを押して入力ボックスを出し、15と入力すること。もしそこで何も反応がなければ、使いどころを間違えている。
上記の例では、F5キーに入力トリガを割り当てているが、キーは何でもいい。また、キーを押した瞬間、数字入力なしに反応するようにしてもかまわない。
数字入力を行う必要のある場面は、複数の鍵を使うことが想定される場合である。同じ「赤い扉」を開ける鍵は、15以外にもあるかもしれない。
また、この方法をとるためには、該当するゲームシステムの制御方法を知っていなければならない。キー割り込み機能が必須である。システムによっては実装不可能だろう。
リドルの解、数値の組み合わせの解
リドルの解や、数値の組み合わせの解を答えさせる必要が出てきたときには、テキストの入力ボックスを表示する。
余談だが、PCゲームの場合、数値以外のキーワードを答えさせることができることもメリットである。
項目番号(番地)の限界
本だと、紙面の制限があったり、出版社に応募するために500項目程度に抑える必要があるなど、ややしい問題を抱えているが、PCでは自由に決定できる。
一つあたりの作品を巨大にせず、400や500という制限をあえて設けて、分冊にしたシリーズ物を作っても面白いかもしれない(作るのは大変そうだが)。
こんなところだろうか。また思いついたら別の日に話を起こしていこうと思う。
あと、この通りに作ってみて実際にいい物ができるかどうかは、まったく見えていない。
制作経験についても、葦葉製作所内のノベルシステムで若干作ったことはあるが、他人に見せられるレベルのものではない。できればそのうちサンプルなど提示してみたいと思う(が、いつになることやら)。