おいしいカレーの作り方伝説

大学の試験で答えが分からなかったとき、答案用紙に「おいしいカレーの作り方」を事細かに書いて提出したところ、見事単位を取ることができたという伝説がある。私が学生のとき、数学の講師から教わった話である。

「書かれているとおりにカレーを作ってみて、本当においしかったから点をくれたのであり、レシピを書けば何でもいいというものではない」とその講師は言っていた。

芸は身を助ける。学生の皆さんは料理の修業に励むべきだろう。試験勉強どころじゃない。


ご存じの方も多かろうが、大学の試験という奴は実にシンプルである(シンプルじゃないこともある。そういうのは得意だった)。

「試験の問題は、過去三ヶ月分の新聞を読んでいれば答えられる内容だ。当日は何を持ち込んでもいい」などと言われることもしばしばだ。高校までの感覚でいると、そのことについ安心して油断をしてしまう。

ところが当日に出される問題は、たとえば経済学であれば「APECについて論ぜよ」とただ一問だけ。黒板にはシンプルに、その一文だけが書かれている。学生に渡される答案用紙は、無地の紙ぺら一枚だけである。

こんな調子だから、たとえばこの例ならAPECについてカケラも知らない人は何一つ解答できない。その場合は真っ白の答案用紙を提出することになり、それは単位の取りこぼしを意味するわけだ。真っ白で出すくらいなら、レシピの一つでも書きたくなるというものじゃないか。

カレー伝説はあながち嘘ではないかもしれない。そして私は、現代でも類似の方法を取っている人がいると信じている。でも私自身にやる勇気はなかった。白紙で出した。