レベル上げってナゼあるの

(※大昔の下書きから発掘した記事)

長丁場のゲームを飽きさせる原因に経験値稼ぎを挙げることは、ファミコンの時代から繰り返されています。それなのに、いまだに難しいゲームから易しいゲームまで、このルールを採用する作品が後を絶たないことは単純にすごいことだと思います。レベル上げという遊びは、ジャンケンやババ抜きに匹敵する庶民性があるのかもしれません。

今回の主旨は、「レベル上げ」と「経験値稼ぎ」を分離して代替えを考える、という内容です。

経験値稼ぎの是非について定義づける気はないのですが、今回はどちらかというと、稼ぎのルーチンワークを減らしたい場合向けの記事になっています。

レベル上げって単純ですね

ところで、経験値稼ぎというのはキャラクタレベルを押し上げる行為ですよね。レベルが上がるとキャラクタが優秀になる、という。あまりに単純なその考え方自体に、現代の複雑なゲーム表現に合わないちぐはぐさみたいなものを感じませんか。

今のゲームは昔より、音も画像もカッコ良くなってデータ量も増えているのに、いまだにキャラクタの強さは経験値まみれ、みたいな。ここだけ進化してない感じがします。まぁ進化とか時代とかは別にどうでもいいんですが。

プレイヤーがレベル上げに邁進する作品は、育成の手段がレベルというパラメータに頼りきりになっていることが多いと思います。プレイヤーから見れば単に「成長とはレベルアップのこと」「レベル上げ強すぎ」という印象が強いのだと思います。

経験値稼ぎについて

経験値を稼ぐことによって強くなるという理屈は、どういう意図があって作られたのかな、と。

もともと作業を課すことを目的に作られたのでは

古来、経験値のルールはテーブルトークRPGから来ているのだと思いますが、コンピュータRPGでは、長い繰り返し作業をプレイヤーに「求めるため」に作られていると私は考えます。

作家としては、すぐにゲームをクリアされてはいけないので、まず障害としてモンスターを配置して、努力の度合いを示すパラメータとして経験値を作った、という見方です。

とりわけ、モンスターを殺すことで経験値が貰えるケースです。モンスターを殺しまくることでゲームが簡単になるなら、当然モンスター殺戮ゲームになります。経験値というデータは、はじめからこの作業スパイラルが約束された、いや向いている情報なのだと思います。そのために作られたんです。

作業を課すために作られたルールなので、作業スパイラルを好まないシナリオの場合、はじめから経験値パラメータを不採用にするという考え方もあると思います。

経験値の特徴

経験値というパラメータにはたぶん、以下の役割を求められているのかなと。

  1. プレイヤーが投資した努力(作業)量を表す
  2. 探索に対するプレイヤーの好奇心を煽る

前者については言わずもがなですが、わりと吟味されずに使われている特徴かもしれません。後述して考えています。

戦闘報酬を調整するというのは、例えば強いモンスターが多くの経験値をくれるから、プレイヤーが先に進む気になったり、高額報酬ポイントを探す気になったりする、という思考です。

あるいはドラゴンクエストの「はぐれメタル」のようにボーナスモンスターを用意して、それを打倒する方法を考えて貰うといったミニゲーム的な使い方もありました。

また、経験値は戦闘以外で貰えてもいいので、例えば経験値をくれる泉を探させるといった使い道もありそうです。

RPGにおける努力って何だろう?

プレイヤーの努力に報いるために存在する経験値という値のこと。もうこの時点で作業ゲームになるニオイがぷんぷんです。なんでゲームやるのに作業努力しなくちゃならんのよ。なんて愚痴をこぼしそうになりますが、これががいい結果に繋がるかは作品次第、プレイヤー次第ですね。

さて、ちょっと肯定的な使い道を考えてみます。

私の予想では、プレイヤーがゲームに対して支払っているもっとも高い代償、それは「時間」です。お金でも体力でもなく、貴重な時間を費やすことがプレイヤーにとって負担であり、努力だと思います。

だからまず、努力を認めるルールを採用するなら、戦闘の結果よりも時間に対する代価を考えてあげるべきです。

戦闘報酬にも意味があります。頭を使って考え、効率よく強い敵を撃破することに対して何もくれないのではプレイヤーが不満に思うかも。

でも戦闘ばかりのゲームならともかく、RPGでは迷路を歩いたり、質問に答えたり、街で買い物をしたりといったこともしなければなりません。これらにもプレイヤーは貴重な時間を支払っています。努力してるんです。実感できる報酬をあげてもいいのでは。

戦いの結果がすべて、だなんて職場の上司みたいなこと言わんでくださいよ。ゲームなんだから能力がなくたって、日常の努力も認めて欲しい。職場をまめに掃除したり、コーヒーを運んだり、明るい話題を作ってくれる人がいた方が、カネにはならないかもしれないけど、みんな幸せでしょう。そこにも査定を割り振りましょう。

ということで、作業ゲームなればこそRPG作家各位には、作業の詳細についてもっと吟味してくれても良いと思うのです。スキル制を採用しているゲームでは、買い物のたびに交渉スキル・魅力パラメータが上がるとか、工夫はしていますが全体としては少数派です。

エスト・ミッションといったシステムはこの辺を少し補うルールになっています。戦闘より「おつかい」に比重が置かれていたりします。でも本編でこれをやってくれるゲームは少ない。

報酬を与えるために区切りを儲けて、本編の中でプレイヤーの作業に報いることをすると、経験値稼ぎへの見方が少し変わるかもしれません。例えば未踏破の迷路を200歩ぶん開発するごとに経験値を与えるとか魔法のパンが降ってくるとか、そういうのはどうでしょう。お礼や激励の言葉があるだけでも効果があると思います。

以上の考えは、これまで戦闘まみれだったRPGの報酬を、分散するという内容でした。いずれにせよ経験値そのものを肯定的に捉えるための考え方です。経験値そのものを採用するかという判断とは別の話になります。

報酬の調整は必ずしも要らない

ここからは経験値に対してやや否定的になります。

戦闘報酬としての経験値を、モンスターごとに変更することに意味はあるんでしょうか。紋切り型のコンピュータRPGでは「弱いスライムが1で、強いドラゴンが100」みたいに相対的に値を設けているようですが、そのことについて意味があるのか、ちゃんと目的があってそうしているのか、という話です。

プレイヤーとして経験値を貰ったとき、それが実際に報酬として「嬉しい」と感じさせてくれるゲームは少ないと感じます。100でも120でも大差ないんです。

たまに意味があります。ドラゴンクエストシリーズで「はぐれメタル」を倒したときや、ウィザードリィで「グレーターデーモン」の大群を倒したときは、ものすごく嬉しいです。でも、大抵の戦闘ではそんなに嬉しくない、ような気がします。世界樹の迷宮シリーズだとそこそこ嬉しいです。

経験値の価値は、作品の中でそれをどう表現するかで変わってきそうです。考えずに採用するほどの価値はないと思います。

思い切って固定経験値にする手も

もし戦闘回数を必要なだけやらせる(=ムダにやらせない)、という調整をするなら、貰える経験値は一定でもゲームの難しさは変わりません。

それなら経験値そのものを取っ払うか、固定値でも良さそうです。戦闘稼ぎそのものに否定的、あるいは消極的なシナリオならなおのこと。

実際の事例。ゲームブックの「ドルアーガの塔」は、敵の経験値がすべて1ですが、本を1ページめくるごとに勝手にシナリオが進むので問題が起きません*1

戦国ランスではダンジョンの最下層に辿り着くたびに仲間全員のレベルが1上がるルールがあって、戦闘に対する経験値はありません。区切りを設けて報酬をまとめて支払う事例ですね。

コンピュータRPGでも戦闘回数や時間を制限すれば、全モンスターの経験値が1かゼロでも作品を作れると思います。

プレイヤーとして経験値を貰って、それが実際に報酬として「嬉しい」と感じるケースが少ないことを考えると、経験値を無くしたり、固定にしてしまう手はわりとイケるのではないかと。

報酬としての経験値の価値とそれ以外

戦闘報酬としての経験値がどれほど嬉しいかはゲームによりますが、ドラゴンクエストの「はぐれメタル」のような事例を除いてあまり効果はないように思います。

はぐれメタル」戦の場合、勝つと巨大な経験値を貰えてプレイヤーが喜ぶわけですが、突き詰めて考えると、プレイヤーはキャラクタが強くなることが嬉しいわけです。それなら経験値を与えるのではなく、「はぐれメタル」に勝ったときだけプレイヤー側のレベルを引き上げるとか、能力値をアップするとかのイベントを起こせばいい。

何かに対する報酬は、必ずしも経験値である必要はないと思います。仮に採用しても、値を表示しなければならない義務はないですしね。

レベルシステム

レベルが上がればクリアに近づく、というゲーム上の「進捗」がレベルの本質なのでしょうから、はじめからそのつもりでレベルを採用することになります。

でもレベルという要素は単純です。なにせ整数が1個あるだけの存在ですよ。これでキャラクタの全体性能を表そうってんだから欠点もあるに決まってるんです。

キャラクタの育成方針として、単一の育成ベクトルしか示せないところに難しさがあると思います。それはメリットにもなり得ますが、自由度が高いことをいいことみなすゲームとは相性が悪いです。すべてではありませんが昨今の作品には多いですよね自由度重視。それが分かっているなら、レベルを別のものに置き換える選択もありだと思います。

レベルの特徴

レベルにはたぶん、以下の特徴があるのだと思います。

  • 育成モデルを単純化してプレイアビリティを向上させる
  • シナリオの進捗を示してプレイへのモチベーションを向上させる

それぞれ別個に置き換わるものを考えれば、レベルである必要はないわけです。

それ以前に、上の特徴が必要がないシナリオなら最初からレベルは要りません。

レベルをランキング表現に置き換える

レベルが上がるとクリアに近づく、という進捗的な考え方は、より分かりやすく「進捗」とか「ランキング」というパラメータに置き換えてみてはいかがでしょう。

プレイヤー的には、レベルより値の価値が下がりますが、キャラクタ育成の方針は別に考えるとして、「いまはランク10だからオークは倒せるなあ」という感覚を伝えるには充分です。

むしろ親切に、以下のようにメッセージを付け加えても面白そうです。

ランク 画面表示
ランク5 「あなたは一階を制覇できる」
ランク10 「あなたは人間界のチャンピオンだ」
ランク20 「あなたは悪魔と互角に戦える」
ランク30 「あなたは竜王に挑むべき」

ただあるだけの整数一個より、その目的として道具を使いこなせてる感じがします。

ランクの計算方法は作家に任せたいと思います。ランク経験値という、育成には影響を与えない独自の報酬を設ける手もあると思います。

育成モデルを単純化する

育成モデルを単純化しつつ自由度を確保するにはどうしたらいいかを考えています。レベル制はとてもシンプルですが、表現に自由性がありません。

逆説的ですが、勝った相手の特徴にあわせてプレイヤーの強さを引き上げる手を考えました。勝った相手の中で一番強かった敵にあわせて、主人公の設定を変更するのです。

勝った相手 成長内容
コボルド 筋力が5になる
悪の魔法使い 魔力が7になる
ニンジャ 敏捷が10になる
妖精 運勢が15になる
ドラゴン 筋力が25に、魔力が25になる

上のデータを元に主人公視点の能力値表を作ると、以下のようになります。

能力
筋力 5 (コボルドに勝った!)
魔力 7 (悪の魔法使いに勝った!)
敏捷 1 (ニンジャを探してくれ!)
運勢 15 (妖精に勝った!)

パラメータは複雑でも、一番強い相手に合わせてデータが動くので難しくはないと思います。でもレベルよりは複雑かなあ。

これなら強くするためレベル上げしまくる、という発想には繋がりません。

まとめ

  • レベルと経験値は作業ゲームに向いています
  • レベルと経験値は、採用する前にメリット・デメリット・目的を把握すべきです
  • レベルも経験値も代用品があります

作業ゲームか、オマージュ作品を作る目的でもない限り、レベルと経験値ありきでゲームデザインを始めることは避けたいです。採用するなら理由から考える必要がありそうです。


(2018/8/12追記)Aちゃんねるの以下MMORPG関連スレッドに面白そうなことが書かれているのでメモ。スタンドアロンのゲームと符合する部分がどれだけあるかはさておき。

なお私は現在、MMORPGをやっておりません。最後に遊んだのは15年くらい昔のUO。

*1:作者いわく、分かりやすいように経験値をすべて1にしたそうです