電車男のように助ける男性

トリビアの種で、100人の“秋葉系”男性を対象に、街中で絡まれている女性を、何人が助けに入るか、という実験をやっていた。

結果を見ると、まぁなんといいますか、“秋葉系に限らず、全体の平均もそんなもんじゃない?”という印象であったが、案外ドラマや映画の影響も受けて“俺も助けよう”としたのかもしれない。

経験上、外見や一見上の趣味にかかわらず、若者は案外、こういったことに積極的であるように思う。ひ弱そうにみえる学生が痴漢を追っ払った場面を見たことがあるし、派手な髪の毛と服装をした“いかにもヤンキーっぽい若者”が、老人のために、座席を他の中年男性から守っているのを見たこともある。混雑した電車の中、老人のために確保された席に座ろうとする五十歳くらいの男性を押しのけて「ここはあんたの席じゃないだろうが!」と厳つい男性がどやす様子は、見ていて胸がすっとした。

老人に席を譲る行為も、酔っぱらいに絡まれている人を助ける行為も、勇気を持つという点では、あまり変わらない次元のことであるように思う。普段から、自然体で老人に席をさしのべている人ならば、きっと酔っぱらいを追い払う勇気も持てるに違いない。


そういえば私も以前、電車内で若い女性を助けたことがある。電車が急停車して、人間が将棋倒し状態になったとき、下敷きになってうめいている女性に手を差し出して、引き上げたことがあった。

引き上げた後で私は、あまり関わるまいとしばらく彼女の方に顔を向けずにいたのだが、かわいそうに思えるくらい、何度も何度も繰り返し頭を下げてお礼を言ってきたので、黙っているのも失礼と思い、一度だけ会釈した。当時、二歳〜四歳程度年下に見えただろうか。えらく華奢で、かわいい子だったことを覚えている。

その直後。私のすぐ隣で、別の若い女性が携帯電話のシャッターを切った。はっと振り向くと、その女性はレンズを私の方に向けていた。なんなんだこの女は!!と突然のことに首をかしげつつ(腹が立ったわけではないが、とにかく戸惑った)、無表情で窓の外を見つめたまま、何事もなかったかのようにその日は帰宅。個人的には、最初に助けた女性のことより、その後の撮影の“目的”の方が気になった。

男性に助けられる出来事というものは、女性にとって憧れなのか、ステータスなのか、恥なのか、話のタネに適していることなのか。どういう理由であるのかは知らないが、将棋倒し状態から救われた(救った)というあの一件が、しばらくの間、彼女たちの心に、何らかの形で残っていたことは間違いなさそうである。