死の間際はみんな苦しむ

母が病院で、とある病気と診断され、肩を落として帰ってきた。ただ、それによってすぐ死に結びつくような病気ではない。

「健康なら長生きしてもいいんだけどねえ。病気になるくらいなら、早く死んだほうがいいんだよね老人は」

そんなことをブツブツこぼしている。

相談事なら応対のしようがあるのだが、雰囲気を落ち込ませるのでこの手の独り言が苦手な私は、なんとか風向きを変えようと言葉を選んで話しかけるが、うまくいかない。

そんなとき、この手の扱いに慣れた妹が現れて言った。

「だったらなんで病院に行くの?病院に行かなければ早く死ねるのに。行くってことは治りたい、長生きしたいってことでしょ?」

まさにその通り。すぐに死んだ方がいいと思っている人間は、病院に行っても仕方がない。病院に行くことは、病気になっても治したいと思っている証である。

母は「苦しまずに死にたいじゃん」と言うが、数多くの死を見てきた看護師には通じないらしい。

「死ぬときはみんな苦しむ。病死も老衰死も死の間際は苦しいの!」

と妹が一蹴。

うーむ、どうやらそういうものらしい。寝ている間にポックリ逝っていそうな人でも、どうやら死の直前は苦しんでいるようだ。

一説には、死の間際は苦しみを紛らわせるために脳内麻薬が分泌され苦しみが和らぐとか、意識を失ってから心停止すれば苦しまないとか言われているようだが、死後に死者の証言を聞く機会などないから実際のところは確認のしようがない。

とりあえず、母は自分がまだ普通っぽいことを認識したようである。