こっくりさんの恐怖とは

こっくりさんというものが何であるか知らなかったけど、子供の頃からよく聞いた言葉でもあった。調べたところ、霊的なおまじないをする特定の行為をこっくりさん遊びと呼び、そこで召喚される狐の霊がこっくりさんらしいことが分かった。

虚妄にせよ夢にせよ信仰にせよ、それによって何人かが異常な行動をとってしまうことを、科学では「集団ヒステリー」と呼んでいて、「心霊現象」とは言わないようですな。

私なんかは、わざわざおっかない霊を呼ぶ儀式をしなくてもいいと思うけど、怖いもの見たさに「こっくりさん」を遊んでしまう気持ちは分かる。

そして、怖いもの見たさでやる遊びを中毒化してしまうことが「こっくりさんの恐怖」ではないかと。

たぶん、こっくりさん自体が実在しているかいないかは関係ないんである。


大抵のオカルトには、青白い女の人とか着物を着た子供といったように、ステレオタイプの「お化け」が登場する。同時に、「名詞」もステレオタイプだったりするところが面白い。

名詞については、例えば以下の例だ。

二人が教室に入った直後、Bはコンクリートの壁に女性の影を見た。次いで肩と腕が重くなり、女性の声が聞こえてきた。「地獄へおいで」と。

「地獄」という言葉が出てくる。このお化けは、地獄という言葉を使いこなして何かをしようとしているのだ。

  • 地獄という日本語を知っている
  • 地獄について学ぶ機会があった
  • 地獄という言葉を人が恐れることを知っていて、恐れさせようとする

人が恐怖を感じやすい「地獄」という言葉を使って恐怖を煽る演出を見せる幽霊。「貴様には地獄すら生ぬるい」はマンガのキャラクタの言葉だけど、これと同じ効果を期待して使っているのだ。

なんか漫画の世界みたいですな。演出など必要ないのになぜ幽霊がそういう言葉を使うんだろう。

相手を連れて行きさえすれば生前の恨み辛みなどいくらでも晴らせるんで、この世で怖がらせるステップなど必要ないと思う。追いかけっこをしてから殺すなんてムダじゃないか。

ドラマにありそうじゃない。ドロドロの男女関係から、女が策を巡らせて他の女に仕返しをする、みたいな刑事ドラマ。相手をいびって恐怖を与えながら殺していく、という。でもあれは、地獄の存在を想定していない犯人が、「この世で相手を苦しめたい」からやるわけで、あの世に連れて行こうとする幽霊とは目的が違うわけだ。

案外、幽霊という存在はものすごく俗物的なのかもしれない。生前の知識の範囲で、しかも生前の世の中で相手をいびるのだ。さっさと地獄に連れてって釜ゆでにした方がスッキリしそうだけどねぇ。

我々としては、たぶん幽霊より、詐欺や中毒に注意した方がいい。幽霊は本当の地獄を知らないと思うんで。


思ったんだけど、地獄をアピールする幽霊より、生活にダメージを与える幽霊の方がおっかなくないか。

例えば背後霊として、他人にしか見えない霊が背中にいて、周りに恐ろしい顔を見せ続ける霊とか。それによって一生恋人が出来ないの。きっと就職もできない。地獄行きより苦痛かもしれない。

他にも、薬物中毒に誘う霊とか、文字を見るたびにゲシュタルト崩壊させてしまう霊とか、ネットに自分の裸を公開したくてしょうがなくなる呪いとか。ああ恐ろしい。