なんとなく介護中

婆さんの部屋に来てプチ介護しております。

一人にしておくといろいろとヤバい行動に出るので、介護施設の利用許可が下りるまでの間、親戚がスケジュールの調整をしつつ、交代で現在の部屋(ケアハウス)に泊り込んだり、こっちの家に泊めたりしております。

で、今日は私がその一部、夕方のみを担当したというわけで。

この文章を書いていたら婆さんが「それ(ノートPC)、やるの難しいかね?」と尋ねてきたので「ああ、とーっても難しいよ!」と答えておきました。

目標!

個室にでっかく「目標」が貼ってありました。

  1. お天気のいい日
    • 外に出て散歩する 1時間
  2. 雨の日
    • 廊下を歩く30分+30分
    • 階段の上り下り 3回+3回
  3. 水分をたくさん飲む
    • 水、お茶、コーヒー
    • ペットボトルを毎日一本飲む
  4. 毎日本を読む

たぶん、どれ一つとして守っていないと思います。ああ、いいなあこういう無意味な目標。ささやかな目標をでっかく書いて、来る人に感銘を与える。それを実践するかはまた別ってことで。

どうせなら私が付け足そうかと思いました。「外国人と英会話10分」「腕立て腹筋50回二セット」「昆虫採集5匹、うち解剖1匹」とか。来た人がさらに驚くかも知れない。書いてる間は惚け防止になるぜ。

廊下歩きは若者でもきついなあ。いやむしろ、若者なればこそきつい。廊下行ったり来たりを合計一時間。できますかこれ。

ペットボトルについては、二リットルのアクエリアスが部屋に大量に置いてあった。これを毎日一本ずつ飲むのは、なかなか辛いのではなかろうか。うちの婆さんは代わりに、リポビタンDを半分ずつ飲んでいるようです。おかげでトイレが壮絶にリポD臭い(空き瓶がまとめて置いてある)。

毎日本を読む……とあるが、部屋には本らしきものがほとんどない。あるのは「故事・ことわざ辞典」と「広語辞典」の二冊だけでした。これを毎日読むのは辛いなあ。後述しますが、読書室は個室の外に設けられており、そこには本がそこそこあります。

試みに、「本は読まないの?」と尋ねてみたところ「本読むヒマなんぞありゃせん」との回答。ウソつくなよ婆さん……


毎日やることと言えば上記の目標があるだけで、他はなにもありません。部屋でじっとしてるだけ。で、上記はたぶん守ってない。こんな生活してたらおかしくなるに決まってる。

食堂!

食堂に行きました。誰もいない食堂で、ひとり虚無に浸ってゆとりを満喫しておりました。

待合室代わりに、ここで婆さんが「デイサービス」から戻ってくるのを待っておったのです。六十歳未満の若輩は契約できませんので、メシは出てきませんが。

都合によりカメラは持参しませんでしたので、文章のみで。

1.全体

食堂はとーっても広いです。一言であらわすと「優雅」です。

壁も床も天井も清潔です。ハナクソを飛ばす気にもなれません。一人でいると金持ち気分に浸れます。わっはっは、ここ全部我が城じゃー、みたいな錯覚。

二台のワイドテレビ、DVD、VHS、ピアノらしきものが設置されております。ひょっとしたらカラオケなんかもできるんじゃなかろうか。

書道の展示がされていたのが印象的。入居している老人が書いたものだろうか。それなりにうまい字で書かれている(私よりはずっとうまいと思う)。

ただ、意外なことにゴミ箱がない。これはちょっと困った。

ゆとりあるスペースになっており、テーブル間のスペースは1〜2メートル開いてる。ベランダは三十人分くらいの洗濯物を干せそうなほど広い。でも景色と呼べる風景はありません。

2.テーブルにはドラマが見える

テーブルが8つくらい並んでおり、それぞれに2〜4脚の椅子が配されております。で、テーブル上には、座る人の名札が1〜4名ぶん置かれている。

ここには思わぬドラマが見え隠れしている。食堂では人間関係を考慮して、座る人間の組み合わせを指定しているのだ。よもやと思うが、老人の世界にもイジメとか派閥とかあるんでしょうか。たぶんあるんだね。

で、私の婆さんはというと、見事に村八分席。というと語弊があるのだが、とにかく、ただ一人だけ、一人専用席になっている。他の人たちはみんな、二人以上の組み合わせで座るようになっているのだが、うちの婆さんだけ一人でテーブルを占有しているのだ。

ええ、これは噂に聞いておりました。集団生活がダメなんですなうちの婆さん……。もう八十年以上もかけて培ってきた性格がそうなっているのだから仕方がない。

3.テレビは見た目が豪華

設置されている二台のテレビはそれなりに大きく、ワイドサイズでしたが、契約は地上波のみの模様。テレビ付けたらアナウンサーの頬がふっくらしておりました。BS1ボタンを押しても砂嵐でした。

4.埃をかぶったパンフレット

地域紹介のパンフレットなんかが置かれているテーブルもありました。ホコリ被ってましたけど。誰が読むんだか知らないけど「○○市広報」とか「花の○○だより」とか、そういう地域PR誌みたいなやつ。

で、そんななか、一番目を引いたのが「オレオレ詐欺にご用心!」のパンフでした。

5.メシ

ホワイトボードには、一週間分の献立が貼られておりました。献立と共に、カロリーと塩分の量が記されておりました。

一日一人あたりの摂取カロリーは1550キロ前後、塩分は9グラム前後といったところ。若者にとって多いんだか少ないんだかは分からないけど、きっと高血圧症の多い老人向けのメニューなのだろう。

夕食の時間はなんと17時45分。早い…!

十八時直前、そんな時間になったことに気づかず、この文章を書いていたら管理の人が、うちの婆さんを呼びに来ました。おっ遅れてすいません……!

個室

個室には、えらく広いトイレが付いております。老人向けにカスタマイズされている。

入り口を横にスライドさせた瞬間、自動的に明かりが灯るようになっている。閉めると消える(たぶん中に人がいると灯り続けるのだろう)。中にはトイレと洗面台あり。バス・シャワーはありません。

ガスはないが(火事の原因を減らしたいのだろう)、電動の湯沸し用ヒーターが付いており、ちょっとした調理ができるようになっている。

エアコンあり。パソコンだって置ける。酒だって飲める。タバコは知らない(興味ない)。

うーむ、完全に私の自宅環境を凌駕しているな……

他の施設

全部を回ったわけではないのだけど、他にも娯楽施設などがあるみたい。

カラオケルーム、娯楽室(という名の読書室)など。カラオケってひょっとして、いつでも使っていいんだろうか。婆さんに聞いたところ「あたしゃ歌ったことない」だそうで。

こういった施設からは、景色も見られるので落ち着く。まあ、景色といっても、田舎の一般的な畑が広がっているだけですが。

風通しがよく、風のある今日のような気候だと最高です。娯楽室の窓を開けて、のんびり夕日を見ているだけで眠くなりました。ここにいると何も考えずにポックリ死ねそう。都会の猥雑さがホント馬鹿馬鹿しくなりそうだ。

とにかく静か。なにせ廊下にも娯楽施設にも人気がない。娯楽施設を自由に使えるのに、誰もいない。あとで聞いたんだけど、メシと風呂のとき以外は、みんな個室に閉じこもっているだけなんだって。だから、建物の中に人がいないってことじゃない。個室から外に出てこないだけだ。

あとは共同トイレ(たぶん、部屋の外を出歩くときのため。トイレは個室にみんな付いてるので)、共同風呂があった。食事と風呂は利用時間が決まっていて、時間内に済ませないといけないらしい。

歩き回ってみて思ったのは、あらゆるドアが広く作られているということ。バリアフリーという奴かな。それと、力がなくても簡単にスライドして開くようになっている。

廊下も広い。フルカーペットだから、寝転がれそう。


こういう施設で三度のメシが出てくるんですからねえ。

これからの流行は、セレブでも独身貴族でもない、老人貴族なんてどうですか。新しい造語。