困難の大きさに比例した報酬を用意することが正解とは限らない

RPGの経験値報酬の話が起点です。ドラゴンクエストシリーズはぐれメタルウィザードリィジャイアント系モンスター。ともに報酬が大きいので、プレイヤーが戦いたがるモンスターです。

はぐれメタル狩りをしたり、ジャイアント狩りをしてしまうと、キャラクタの成長が早くなってゲームバランスが崩れるような錯覚がありました。たぶん半分くらいは錯覚じゃないです*1ドラクエ4のメタルキング狩りは実際にその後の攻略を楽にしました。

しかし、私は以下のような見方もしてみました。これらが偶然生まれた可能性もありますが、結果的には面白い効果になって現れていると思います。

ドラゴンクエストはぐれメタル

呪文ドラゴラムや、武道家・アリーナの会心の一撃に頼って稼ぐとレベルアップが激しいです。

しかし、ドラクエ3〜4ははぐれメタル狩りをせずともクリアできるゲームです。ゲーム途中で経験値稼ぎを試みることはありますが、私の経験では、彼らを利用せずともちょっとレベルを上げれば次のエリアに行けます*2

私が思うに当時のエニックスは、はぐれメタル狩りという遊び方を用意したのだと思います。はぐれメタルは大半が逃げるので、プレイヤー的には経験値ゼロというリスクが伴います。他のモンスター狩りに比べて、長期的に見れば見ればプラスになることが多いようですが、長期にわたって経験値稼ぎをすることはゲームバランスの観点では少なく、短期的にはマイナスになることがあります。

これはギャンブル、ミニゲームだと考えてみます。ドラゴンクエストというゲームを攻略するための要素ではなく、経験値というデータを使って、カジノのミニゲームと同じようなゲームをフィールドの中に仕込んだのです。とかく飽きがちなフィールド戦闘に、ひとつまみのスパイスを盛ってみたのです。

プレイヤーは、はじめてはぐれメタルを倒して経験値が表示されたときビックリ喜んで、次に遭ったとき逃げられてガッカリして、その次には倒した瞬間、経験値が表示されてもいないのに皮算用をする。これだけで十分、ゲーム的です。

しかも後日、はぐれメタルのぬいぐるみを出せば売れそうです。二次創作でも何度か見たことがあります。このミニゲームはキャラクタ性すら生んでいるのです。

私たちが作品を作るとき、はぐれメタル狩りと同じくらい楽しいゲームをどうやったら作れるかを考えてみたいです。簡単には作れないと思います。これだけ価値のあるミニゲーム、多少ドラクエ本体のゲームバランスが崩れたからと言ってたいした問題にはならないかもしれません。

ウィザードリィジャイアン

FC版はマカニトで瞬殺のジャイアント系モンスター。オイシイですよね*3。相対的に、強敵マイルフィックや人系モンスターの経験値が安くて困ります。

いや、本当は困ってないんです。困ったように思わされてしまうところが貴重な効果です。ウィザードリィは、ちょっと狡いやり方でゲームバランスを作っています。経験値が低い他のモンスターは、本当はもっと経験値が多いのですが、わざと減らしてあるのだと思います。

その代わり、いつも苦労しているウィザードリィプレイヤーに、ジャイアントを賞与、ボーナスとみなしてプレイヤーにあげているのです。経験値たっぷりのフロストジャイアントは冬のボーナスです。

レイバーロードは弱いくせにいいアイテムを出す。こちらは夏のボーナスです。でも夏は、年度末の成果が予測できなかったり、上期の成績を元に計算したりするため、会社によってボーナスが出るかはまちまち、あるいは少なめに出します。本当にいいアイテムはたまにしか出ません。

ウィザードリィでは、プレイヤーが適当にジャイアントを倒すことで、トータルの経験値を調整し、攻略に要する時間を適正化しているのだと思います。このように調整する目的は、はぐれメタルミニゲーム効果に近いです。プレイヤーは時々ボーナスが貰えるから普段の繰り返し戦闘を我慢して続けてしまう。プレイ中に眠くならないように時折、大きな報酬を与えて脳を楽しませるのです。

ジャイアント狩りを選べばキャラクタの成長で楽をできるかもしれません。ジャイアント狩りを選ぶのはプレイヤーです。ついそれを楽しんでしまう人はどんどんやるべきです。作り手もその程度は覚悟していると思います。しかし、もしジャイアント狩りが作業的などの理由で楽しめない人は、普通にゲーム的確率に身を任せてみて下さい。ウィザードリィは一応、それで攻略できるようになっています。

まぁ、ポイゾンジャイアントの先制攻撃はとても恐ろしいので、経験値の大きさは、リスクに対する高額報酬という理由づけも残るかもしれません。それでも私はポイゾンジャイアントについては、リスク以上の報酬があると思っていますが、この手の話にはウィザードリィの伝統的アイデンティティが絡んできそうです。その部分については割愛ということで*4

ここから得られる考え方

パチンコや競馬と同じで、ゲーム制作においては、困難の大きさに比例した報酬を用意することが正解になるとは限らないのです。ゲーム資源を作る目的はプレイヤーを楽しませることで、数的バランスを維持することが目的ではないという。きれいに並んだ階差数列はゲーム誘導の道具でしかなく、いつでも外しうるものだと思います。

パチンコや競馬は赤字になりつつ、一発逆転を狙うゲームですが、好きな人は麻薬的にハマりますよね。このあたりは心理学で研究されているようです。詳しくはどうぞそちらへ。

*1:今ここで、何をもってゲームバランスとするのかを定義して語っているわけでもないです

*2:ドラクエ2については、はぐれメタルで稼ぐことがちょっと難しいのでナシにします

*3:ファイアジャイアントを除きます

*4:ところで原典たるD&Dの経験点ってどうなってましたっけ