職業制RPGにおけるセカンドポジションの活用
今日は理屈をごねますのでご了承を。
ツイッターの@Longswordさん(http://twitter.com/Longsword)の発言が面白いので引用。
Longsword 一方的に野盗の襲撃を受けないために、剣を身につけてリーチだけ稼ぐやりかたは現実味がある。魔法使いでも剣を持っているだけで牽制効果があるなら、帯刀したほうが安全になる。武器社会の理屈が反映されるとリアリティがあっていいな。
かねて考えていたんだけど、コンピュータRPGではなぜ僧侶や魔法使いが刀を持ってはいけないのか、持たないことでどれほど不利になるか、持てば有利になるかということまで考えられているゲームルールはそう多くない。宗教的な理由があるとか、力が弱いとかの、背景による決めつけで禁止を強制しているだけという。
けれど奇襲してくる強盗には杖なんぞより、威嚇用の武装を見せつけておく方が安全じゃないか。むしろ、危機を脱するための得物を、なんで魔法使いだけ携帯しないのか不思議でしょうがない。竹光や投げダガーでもいいから持てよと。そして、ちょっとくらい訓練しろよと。旅に出るんだろう?
だけど魔法使いチームが剣の達人になれちゃうとゲーム的に面白くないので、僧侶は刀を持てないとか理由をくっつけて弱点を強制してしまう。大人の事情で、魔法使いは必ず身体が弱いのだ。
永遠に怯え続ける魔法使い
魔法使いだって追い剥ぎや、旅慣れぬ気候の土地は、怖いだろう。
ひ弱な身体にコンプレックスを抱いたまま魔法使いたちが数百年もの間、奇襲にやられっぱなしになるというのは変だ。鋼に匹敵する万能なローブを発明するか、自動的に発動する防御魔法を編み出すといった対策がとられるんじゃないか。
でもゲームでは、魔法使いには壊れやすい大砲の役割しか与えてない。盾はパラディンの役目、盗賊は狙撃。このように役割を明確にすることでプレイヤーはパーティ編成を楽しめるけど、そのために魔法使いは永遠に、背後からの奇襲に怯えていなくてはならないのだ。
パーティの一番後ろが魔法使いだなんて素人のとる隊列としか思えない。でも戦士を後ろにやれば、ゲームだと戦力ダウンする。
戦士は永遠にバカで、魔法使いは永遠にひ弱。そういう設定を受け容れることで初めて遊べるゲームが多いことは間違いない。
機能が狭いと、人員が膨らむばかりで割りを喰らう人が出る
プレイヤーが「俺のパーティに盾はいらない」と言った瞬間、パラディンは解雇の憂き目に遭う。
設定的には人材が払底しているはずのRPGの世界、妥協案として「仲間のパラディンを使って突撃的な布陣を敷く。しょうがないからそうする」という戦略をとれるゲームが少ないのだ。
これは、パラディンにも捨て身のダガー作戦や、弓矢による狙撃作戦をとってもらうしかない状況があるかどうかだ。もしあった場合、ダガーや弓矢を装備したときのルールが規定されていないと困る。突撃的な職業キャラであるニンジャや魔法使いを、探したり作ったりして補うことになり、余っているパラディンは酒場にお蔵入りという*1、経済面で見ればまことに不合理な状況が生まれる*2。
もしパラディンがパーティのリーダー格だったらどうするんだろう。
最強の特徴を一時的に捨てても戦えるゲーム
大抵のゲームにはガタイのいい魔法使いが剣をかざして、強盗を威嚇するルールはない。ファイアボールを撃つより、剣をかざして問題が解決するならその方が賢いに決まっているのに、賢いはずの魔法使いが、ちっとも賢くない戦い方をしなければならない*3。
パラディンは乱戦の中にあっても、ガンコに巨大な盾を構え続ける能なしだ。
パラディンが盾として使える状況が続く間は合理的なので、ゲームルールは理にかなう。ところが想定外の状況が生まれたときが問題だ。
「世界樹の迷宮」だと、育て方によってパラディンは突撃的な位置づけになれるけど、そのように「育てた場合だけ」だ。
もし、魔法使いが剣で威嚇したり、パラディンが盾を捨てても8割程度の戦力を維持するためのルールがあれば、どういうゲームになるだろう。
- キャラクタ一人あたりへの感情移入度が増すかも
- パーティ編成には若干、面白みがなくなるかも
編成に面白みが無くなる、というのは、職業が使い回しできてしまい役割が曖昧になることの弊害で、覚悟しなければならない。
セカンドポジションが万能でもいいじゃないか
職業制を採用しているRPGキャラクタのセカンドポジションは、万能であってもいいのかもしれない。
剣や弓矢で戦う能力は全員が持っていてもよく、戦士やレンジャーとはあまり差を付けない、という考え方。大抵の職業性RPGでは、セカンドポジションそのものが考慮されていない。
ゲームだと専用武器を使って攻撃したときの桁が1つ2つ違うなんて当たり前で、それだと魔法使いが剣をもつことが異常なことと思わされてしまう。でも魔法使いだって筋トレくらいはするだろうし、だいたい生き残るのに必死だろう。
「あ、後ろから斬られた。鎧を着てないからボク、死にます」とか言って素直に死ぬ魔法使いはいないと思う。むしろ「魔法使いなんてやらなければ鎧を着られたのに」と後悔して死んでいくんじゃないかな。あるいは「筋トレやっとけば良かった」かな。
RPG界ではテンプレートのままヒーローになれる
戦士=屈強、魔法使い=貧弱みたいなテンプレートが有名になってしまった世界だと、本来なら、魔法使いは奇襲のカモにできるという認識が広まって襲われやすくなったり、戦士+魔法使いパーティに対する有効戦術が広まって、PCの生存率が下がるはず。
テンプレートパーティのまま進撃してヒーローになれちゃうおバカさが、RPGの一番皮肉な部分かもしれない。本来、正攻法に頼るばかりの頭でっかちの人間が生き残れるわけがない。
生き残りに適している職業
私の感覚だと、旅の課程で生存率が高いドラクエ的職業は盗賊、遊び人、商人、踊り子あたりだろうけどゲームだと逆だ。
戦士や魔法使いが強いのは決闘的な戦場に限定されるはず。名前が知れ渡っている勇者なんか一週間で暗殺されるだろう*4。彼らは皆、大魔法使いや魔王との決戦でのみ呼び出すべき戦力なのだ。
でもほとんどの人は、盗賊や商人より魔法使いやパラディンの方が好きなんだ。理由はたぶん、決戦的シチュエーションが好きな人が多いからだろうね。旅の本質はサバイバルであって決闘ではないだろうに、多くのRPGでは決闘を繰り返してゴールを目指そうとする。
そりゃあパラディンは、一対一で美女を取り合うときは強いだろうけどね。クモやゴキブリには弱そうじゃない?重厚なアーマーの中にムカデが入り込んだらどうするんだろう。竜王のブレスに耐えたあと、ムカデの毒に殺されたんじゃ感動が台無しだ。ゴキブリなんてタワーシールドで叩くより、スリッパの方が絶対にいいもの。
ゲームだからしょうがないと分かってはいるけれど、ファーストポジションだけで最後まで行けちゃう職業制RPGとは、やや違う職業制RPGを見てみたい気がする。
*1:RPGの酒場はニートの集会所である。かつて西洋では酒場が職安を兼ねていた、というもっともらしい理由づけがあるようだけど、私には、飲んだくれにはニートが多いという、古典的な皮肉が込められているように思える
*2:ところで、神聖なるパラディンや僧侶も仕事がないとき、酒場で飲んだくれていいんでしょうか
*3:魔法使いが野盗に襲われるたびに、人肉の焼ける臭いがあたりに漂うことになる。私なら戦闘直後にキャンプ張りたくない
*4:ドラゴンクエスト4の主人公が最初に狙われたのは、珍しくまっとうな例だと思う。悪い奴ほど正義の刃を恐れる小心者なので、勇者やその息子など、レベル1のうちから真っ先に消したい相手のはず